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札幌家庭裁判所 昭和60年(家)575号 審判

申立人 青木景子

主文

申立人の氏「青木」を「正田」に変更することを許可する。

理由

1  申立人は、主文同旨の審判を求めた。

2  筆頭者青木景子の戸籍謄本、姜友和、姜操、姜望、姜隆の各登録済証明書、申立人及び姜友和に対する各審問の結果、その他一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人は、昭和四五年三月一四日韓国国籍の姜友和と婚姻の届出をし、同人との間に長女操(昭和四七年三月二五日生)、二女望(昭和四九年一月一〇日生)、長男隆(昭和五四年五月八日生)を儲けている。

(2)  申立人の夫姜友和は、父親が昭和初期に来日した在日韓国人であつたことから、日本(山形県)で出生し、日本で生育してきたものであるが、出生以来日常生活では父親と同じ「正田」姓を通称として使用してきた。従つて、申立人も、上記婚姻後は夫と同じ「正田」姓を通称として使用してきた。

(3)  上記夫婦間の三子は、出生により父親の国籍である韓国国籍を取得し、父親の氏「姜」を称し、通称として「正田」姓を使用してきたが国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律(昭和五九年法律第四五号)に基づき昭和六〇年一月一六日母親の国籍である日本国籍を取得し、申立人の戸籍に入籍され、申立人の氏「青木」を称することとなつた。しかしながら、上記三子は従前どおり「正田」姓を使用することを希望している。

(4)  そこで、申立人としては、自らが戸籍上の氏と通称としての氏との不一致を避けるとともに、上記三子が日本国籍取得に伴う氏の変更により被るべき不利益を回避するため、本件氏の変更を決意したものである。本件申立は申立人の夫の意向でもある。

3  本件は、韓国人と婚姻した日本女性が、その氏を夫の本国における氏にではなく、夫が日本で使用している通称としての氏に変更するため、その許可を求めたものである。近時施行された国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律(昭和五九年法律第四五号)により、渉外婚姻関係に入つた日本人がその氏を外国人である配偶者の称する氏に変更できることが明文で認められ、かつ、その方法も、家庭裁判所の許可を要せず、届出だけでなしうる旨明示され、簡便な方法で容易に夫婦同氏を称する道が開けたが、もとより上記法律にいう外国人配偶者の氏は、通称としての氏ではなく、その本国における氏を指すものであるから、上記法律が予定した渉外婚姻における日本人配偶者の氏のあり方からすれば、或いは申立人についても、その氏を夫の本国における氏「姜」に変更、通称として、夫と同様に「正田」姓を名乗ればよいとの考えもあろう。しかしながら、申立人がかかる方法を選択するのであれば格別、そうでない以上は、戸籍上の氏と通称氏との不一致を今後とも継続させることとなるかかる方法を申立人に強いることはできないであろう。

申立人は、夫と婚姻以来約一五年間「正田」姓を使用しており、申立人の氏を夫の通称としての氏「正田」に変更することによる申立人の利益は大きく、これに対して変更による社会的影響は少いこと、同様のことは、申立人と同籍する申立人夫婦の子らについてもいえることであり、申立人の本件氏の変更は子らにとつても利益であり、その変更による社会的影響も少いこと、更に、このような夫の通称氏による夫婦同氏も、必ずしも上記法律の趣旨に反するものではないと考えられることを合わせ考慮すれば、本件申立人の氏の変更はやむを得ないものとして許可するのが相当である。

4  よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岩井正子)

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